アジアの"いま"

鈴木 博
2022/05/11 12:16
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 4月21日、アジア経済研究所は、「ASEAN議長国によるミャンマー政治危機への対応」と題するレポートを公表しました。著者は、東京大学大学院総合文化研究科の鈴木早苗准教授です。

 レポートでは、「ASEAN議長国の役割を確認し、ミャンマー問題に関する議長国カンボジアの議事運営がASEANにどのような影響を及ぼし得るのかを探る。」としています。このため、ASEAN議長国の役割と加盟国の利害対立、2021年議長国ブルネイの采配と限界、2022年議長国カンボジアの意気込みと他の加盟国の反発、議長国の采配がもたらす影響等について分析しています。

 今年1月、フン・セン首相は、他の加盟国に事前の相談もなくミャンマーを訪問し、ミンアウンフライン国軍最高司令官と会談すると発表しました。インドネシアやシンガポール、マレーシアなどは強く反発し、1月に予定されていた非公式外相会議が延期されてしまいました。加盟各国首脳との電話会談などを通じて、フン・セン首相は事態打開のためには軍事政権との対話が必要であることを説得したとみられます。その結果、無条件のASEAN特使派遣にまで漕ぎつけましたが、カンボジアの狙い通りに、軍事政権の方針になんらかの変化をもたらす見通しはまだ立っていないのが現状です。

 ASEANの協力は、加盟国間の利害対立と調整、妥協の歴史でもあり、今回のミャンマー政変だけでなく、すでに南シナ海問題、インド太平洋協力などで加盟国は意見を異にし、ASEANとして統一見解を発信するのが難しい状況になっている分析しています。結論として、カンボジアには議事運営において、他の加盟国の不信感を払拭し、ミャンマー軍事政権の意向も汲み取りながら成果を出すという難しい舵取りが求められているとしています。

 分析の中で特筆すべきは、前回、カンボジアが議長国であった2012年の外相会議においてASEAN史上初めて、共同声明の発表ができなかったことが、カンボジアにとって外交上の手痛い失点となっただけでなく、他の加盟国にとってもカンボジアの議事運営に対する不信感を生むきっかけとなってしまったという点です。南シナ海問題で中国の意向を重視したことが、10年経っても払拭できないトラウマとなっているという事実は、今後のカンボジアのASEANにおける立場にとっても大変重要な要素となっているものと見られます。

 ASEAN議長国としてのカンボジアのミャンマー問題に対する取り組みと、ASEAN各国の対応や戦略が良くわかるレポートです。ぜひご一読ください。

アジア経済研究所のサイト

https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Eyes/2022/ISQ202220_006.html

鈴木 博
コンサルタント

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト


東京大学経済学部卒。海外経済協力基金、国際協力銀行等で途上国向け円借款業務を約30年。2007年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジアの開発のWin-Win関係を目指して、経済調査、情報提供を行っている。

ブログ「カンボジア経済」 http://blog.goo.ne.jp/cambodiasoken


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