アジアの"いま"

鈴木 博
2021/05/05 16:10
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 4月10日、カンボジアのフン・セン首相は、米国のバイデン政権に対し、1970年代のロン・ノル政権時代に米国から借り入れた借金を開発援助に振り替えることを求めたと発表しました。フン・セン首相は、オバマ政権時代にも債務免除等の申し入れを3回行っているとしています。

 カンボジアは、内戦時代の債務の一部について各国と削減交渉を行っており、現在もなお交渉中の金額(元本)は、6億2005万ドルとなっています(カンボジア公的債務統計)。まず、大口のロシアについては、2018年10月に、利息等含めた総額約15億ドルの債務について投資等に振り替えることで合意しています。また、チェコから借り入れた約300万ドル(利息等を含めて約360万ドル)については、77%の債務を免除し、23%については保健・教育セクターへの支援に振り替えることで2019年9月に合意済です。
 残る大口の米国の債務については、フン・セン首相と敵対していたロン・ノル政権が借り入れたもので、使途不明や武器購入の疑い等があるため「汚れた借金(Dirty Debt)」と呼ばれています。元金は、2億7800万ドルで、金利等が加わって現在は5億500万ドルとなっている模様です。フン・セン首相は、「この資金は、米国製の爆弾の購入に使用され、購入された爆弾はカンボジア人民に対して使用され、多くの死傷者を出した。この忌まわしい記憶を思い出すたびに胸が痛む。」と述べています。
 この債務については、カンボジアは米国には絶対に返済しないとの立場に立っており、米国に対して債務免除を求めてきました。国が他国から借り入れた借金は、その後、政権が代わっても国として返済の義務を負うことが通則ではありますが、この件に限っては、フン・セン首相に分があるものと見られます。米国上院だけでなく、米国マスコミ等にも、キャンセルしてはどうかとの声もあり、2020年10月には、在カンボジア米国大使も本件に言及しています。
 なお、カンボジアが米国に対して債務を返済していないことは、カンボジアの格付けにも影響を与えている可能性があり、米国との交渉が早期に進展することが望まれます。

鈴木 博
コンサルタント

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト


東京大学経済学部卒。海外経済協力基金、国際協力銀行等で途上国向け円借款業務を約30年。2007年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジアの開発のWin-Win関係を目指して、経済調査、情報提供を行っている。

ブログ「カンボジア経済」 http://blog.goo.ne.jp/cambodiasoken


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