アジアの"いま"

鈴木 博
2021/10/27 12:33
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 報道によりますと、10月13日、中国による軍事利用の可能性が指摘されるカンボジア南部のリアム海軍基地で新たな建築物の建設が確認され、在カンボジア米国大使館がカンボジア政府に抗議声明を出したとのことです。10月12日に米戦略国際問題研究所(CSIS)が、リアム基地で8~9月に建築物3棟と新たな道路の建設開始が確認された様子を示す写真を公開していました。在カンボジア米国大使館の報道官は、声明で「カンボジア政府はこの意図と性質、中国軍の役割について十分な透明性を示していない」と、中国を名指しして非難しました。

 2019年7月21日、米国のウォール・ストリート・ジャーナルは、カンボジアと中国がリアム海軍基地の利用に関して秘密合意を行っていると報じていました。リアム海軍基地は、シアヌークビル空港の南の海岸にある小規模な基地で、現在は、桟橋が1本あるだけです。また、周辺海域は、水深が浅く、大型船舶の入港は現状では、困難と見られます。現状では中国軍の軍事拠点となるのは難しいものの、タイ湾の湾口を押さえる重要な戦略拠点となりうる場所にあり、万が一にもこの基地が中国の手に落ち、中距離ミサイル等を配備された場合、タイや周辺諸国との海上サプライチェーンの安全保障に重大な脅威となりかねません。また、空港が近いこともあり、航空輸送で展開可能な電子戦部隊の進出等も危惧されます。米国としては、絶対に譲れない一線(レッドライン)を明確にカンボジア側に伝える意図があるものと見られます。

 今年6月1日には、米国のウェンディ・ルース・シャーマン国務副長官がカンボジアを訪問し、フン・セン首相他と会談し、中国がカンボジアのリアム海軍基地の拡張を支援するなど軍事プレゼンスを高めていることに深刻な懸念を表明し、カンボジアに独立したバランスの取れた外交を展開するよう求めていました。

 本件の取扱いはカンボジアにとって非常に重要なものとなりかねません。米中対立激化の中で綱渡り外交を続ける小国カンボジアにとって、慎重な対応が必要な状況と見られます。

米戦略国際問題研究所(CSIS)のサイト

https://amti.csis.org/changes-underway-at-cambodias-ream-naval-base/

鈴木 博
コンサルタント

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト


東京大学経済学部卒。海外経済協力基金、国際協力銀行等で途上国向け円借款業務を約30年。2007年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジアの開発のWin-Win関係を目指して、経済調査、情報提供を行っている。

ブログ「カンボジア経済」 http://blog.goo.ne.jp/cambodiasoken


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