アジアの"いま"

鈴木 博
2023/08/23 09:17
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 7月24日、米国の民間衛星写真・情報会社のブラックスカイは、カンボジア南部シアヌークビル近郊のリアム海軍基地の現状を示す衛星写真と分析を発表しました。分析によりますと、新たに建設され完成間近の桟橋は、中国軍がジブチに建設したものとほぼ同様で、長さ363メートルで中国海軍の空母にも対応可能な規模となっているとしています。

  2022年6月、リアム海軍基地で中国支援による改修工事が開始されました。カンボジア側は、今回の工事は、同基地の「近代化」を念頭に置いたものであり、乾ドック、埠頭、船台といった設備の建設・改修を行うものとしています。他方、米国等は、カンボジアと中国がリアム海軍基地の利用に関して秘密合意を行っていると批判しており、中国軍の拠点拡大の兆候として警戒しています。
 リアム海軍基地は、シアヌークビル空港の南の海岸にある小規模な基地で、これまでは、小規模な桟橋が1本あるだけでした。新たな桟橋等の建設によって、ブラックスカイでは中国海軍の空母も対応可能であるとしていますが、周辺海域の水深が浅いこともあり、当面実態的には難しいものと見られます。しかし、富裕級高速戦闘支援艦(4万8000トン)程度は入港可能であるとの見方もあります。
 現状では、直ちに中国海軍の軍事拠点となるのは難しいものの、このリアム基地はタイ湾の湾口を押さえる重要な戦略拠点となりうる場所にあり、万が一にもこの基地が中国の手に落ち、中距離ミサイル等を配備された場合、タイや周辺諸国との海上サプライチェーンの安全保障に重大な脅威となりかねません。また、3300メートル級の滑走路を有する空港が近いこともあり、航空輸送で展開可能な電子戦部隊の進出等も危惧されます。

 2022年11月、ASEAN 関連首脳会議のためにカンボジアを訪問したバイデン米国大統領は、フン・セン首相と首脳会談を行いました。この会談で、バイデン大統領は、リアム海軍基地問題を取り上げました。米国としては、絶対に譲れない一線(レッドライン)を明確にカンボジア側に伝える意図があったものと見られます。本件の取扱いはカンボジアにとって非常に重要なものとなりかねません。米中対立激化の中で綱渡り外交を続ける小国カンボジアにとって、慎重な対応が必要な状況と見られます。

ブラックスカイの新聞発表(英文です)

https://www.blacksky.com/2023/07/24/blacksky-releases-imagery-of-near-complete-chinese-military-naval-station-in-cambodia/

鈴木 博
コンサルタント

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト


東京大学経済学部卒。海外経済協力基金、国際協力銀行等で途上国向け円借款業務を約30年。2007年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジアの開発のWin-Win関係を目指して、経済調査、情報提供を行っている。

ブログ「カンボジア経済」 http://blog.goo.ne.jp/cambodiasoken


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