アジアの"いま"

鈴木 博
2020/10/21 12:11
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 10月2日、米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は衛星写真を分析した結果、カンボジアのリアム海軍基地で米国の支援で建設した施設が2020年9月中旬には破壊されたことがわかったと発表しました。カンボジア軍当局者は、米国の支援により建設された施設を取り壊したことを認め、基地の再整備を理由に挙げています。この状況に対し、米国は鋭く反応し、米国防総省は声明で、カンボジアに解体工事についての詳細な説明を求めており、「中国の軍事資産と人員をリアム海軍基地に収容するというカンボジア政府の計画に結び付くのではないかと懸念している」としています。また、日本を訪問中だったマイク・ポンペオ米国務長官は、インド太平洋地域で発生する一連の中国共産党による地域問題は、米国と中国による競争の話ではなく、自由と民主主義を支持する人々に向けられた挑戦だと述べ、中国共産党による威圧的な行動として南シナ海や東シナ海、香港、台湾海峡だけでなく、カンボジアでの動きも取り上げました。

 2019年7月21日、米国のウォール・ストリート・ジャーナルは、カンボジアと中国がリアム海軍基地の利用に関して秘密合意を行っていると報じていました。リアム海軍基地は、シアヌークビル空港の南の海岸にある小規模な基地で、現在は、桟橋が1本あるだけです。また、周辺海域は、水深が浅く、大型船舶の入港は現状では、困難と見られます。現状では中国軍の軍事拠点となるのは難しいものの、タイ湾の湾口を押さえる重要な戦略拠点となりうる場所にあり、万が一にもこの基地が中国の手に落ちた場合、タイや周辺諸国との海上サプライチェーンの安全保障に重大な脅威となりかねません。また、空港が近いこともあり、航空輸送で展開可能な電子戦部隊の進出等も危惧されます。米国としては、絶対に譲れない一線(レッドライン)を明確にカンボジア側に伝える意図があるものと見られます。

 本件は、当面、軍事的な問題になることはないものとは見られますが、その取扱いはカンボジアにとって非常に重要なものとなりかねません。米中対立激化の中で綱渡り外交を続ける小国カンボジアにとって、慎重な対応が必要な状況と見られます。

鈴木 博
コンサルタント

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト


東京大学経済学部卒。海外経済協力基金、国際協力銀行等で途上国向け円借款業務を約30年。2007年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジアの開発のWin-Win関係を目指して、経済調査、情報提供を行っている。

ブログ「カンボジア経済」 http://blog.goo.ne.jp/cambodiasoken


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