アジアの"いま"

鈴木 博
2020/06/10 19:33
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 5月28日、カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)は、金融機関向けに通達を発出し、9月1日以降、少額ドル紙幣(1ドル札、2ドル札、5ドル札)の中央銀行への持ち込みに際し手数料を課す可能性があると伝えました。高度にドル化した経済であるカンボジアでは、ドル札が一般に流通していますが、古くなったドル札や余ったドル札を金融機関は中央銀行に持ち込んでいます。このドル札は、香港・米国等に「輸出」され、新札に交換されたり、外貨準備となったりしているものと見られます(NBCは、この種の業務について情報を開示していません)。カンボジア経済の拡大に伴いドル札の扱い量が増えていることに加え、ドルの少額紙幣については、かさばることもあって、輸出のコストがかかるため、NBCとしては、そのコストを民間金融機関に転嫁したいと考えたものと見られます。また、新型コロナの影響で、観光客が激減しているため、ドル現金の持ち込み量、取引量が減っているこの時期ならやりやすいと考えた節もあります。また、少額取引におけるリエルの使用促進の効果も期待していたものと見られます。

 この通達について、思わぬ誤解が広まり、混乱が起きています。市中では、ドルの小額紙幣が「使用禁止」となるとの誤解が広がり、市場やガソリンスタンドでドルの小額紙幣の受取りを拒否したり、受け取りに際して手数料を取るといったことが起きているとのことです。

 このため、NBCに加え、フン・セン首相、マイクロファイナンス協会等が声明を発表し、ドルの小額紙幣の使用には何の問題もないと繰り返して、誤解とデマの打ち消しに務めています。

 カンボジアでは、一般の人々だけでなくマスコミ関係者の金融リテラシーにも不十分なところがあり、誤解とデマが広まったものと見られます。また、カンボジアでは、通貨に対する信認性が低いことも背景にあるものと見られます。高度にドル化した経済が「脱ドル化」することは、大変に難しい政策課題の一つです。一歩間違うと、アルゼンチンやトルコのように自国通貨の暴落等の弊害を招く可能性もあります(アルゼンチンペソは、2000年には1ドル=1ペソでしたが、現在1ドル=68ペソまで減価しています)。NBCも国際通貨基金(IMF)等もカンボジアの脱ドル化については、慎重に時間をかけて行うべきとしています。今回のNBCの通達は、ドルとリエルの交換性に直接影響するものであり、もう少し慎重に取り組んでも良かったかと思われます。

鈴木 博
コンサルタント

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト


東京大学経済学部卒。海外経済協力基金、国際協力銀行等で途上国向け円借款業務を約30年。2007年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジアの開発のWin-Win関係を目指して、経済調査、情報提供を行っている。

ブログ「カンボジア経済」 http://blog.goo.ne.jp/cambodiasoken


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