アジアの"いま"

鈴木 博
2021/12/22 12:08
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 12月8日、米国政府は、カンボジア政府による人権侵害や汚職、中国軍の影響を理由にカンボジア向けの輸出規制を厳格化すると発表しました。米国商務省はカンボジアを武器禁輸国(D:5)に分類し、ハイテク製品の輸出審査を厳格化しました。軍事用途や軍事関係者への輸出は事実上認めないとしています。また、カンボジアへの武器輸出を禁じました。D:5に分類されている国は、中国、北朝鮮、イラン、キューバ、アフガニスタン、ベネズエラ等、米国に脅威を与えている「敵国」であり、カンボジアがこの分類になったことには驚きがあります。レモンド商務長官は声明で「汚職や人権侵害に厳しく対処し、地域と世界の安全保障を脅かす中国軍の影響を減らすようカンボジア政府に促す」と述べています。中国は、カンボジア南西部にあるリアム海軍基地の拡張を支援していると指摘されており、米国は中国が同基地を軍事利用することへの警戒を強めていました。今回の決定の背景には、米軍が脅威と感じるような事態がカンボジアで起きつつあることを示唆しているものと見られます。

 なお、カンボジアは米国製の武器を内戦後は購入していない模様であり、すぐに直接の影響はないものと見られます。ただ、輸出審査が厳格化されたハイテク製品には、思わぬ品目が含まれている可能性があり、カンボジア向けの輸出を行っている方は留意が必要です。

 これまで、カンボジアは米中冷戦の中で綱渡り外交を続けてきましたが、「親中派」のカンボジアに米国もしびれを切らせているものと見られます。特に、リアム基地等に中国軍が進出し、中距離ミサイルや電子線部隊を配備した場合の脅威は見逃せないと判断している可能性があります。フン・セン首相は、中国をまねた戦狼外交的発言で、米国の措置に反発していますが、事態の重大性には気が付いているものと見られます。先週末には、米国国務省のデレク・チョレット参事官がカンボジアを訪問しており、米国も硬軟両用の構えを取っています。米国は今後、EUと同様に特恵関税制度の制限や、ドル化経済のカンボジアにとって影響が大きい金融規制等に制裁をエスカレートさせていく可能性もあり、米国・カンボジアの対応が注目されます。

米国商務省の発表(英文です)

https://www.commerce.gov/news/press-releases/2021/12/commerce-adds-export-controls-cambodia-address-corruption-human-rights

JETROのサイト

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/12/b6b0574dcadb821e.html

鈴木 博
コンサルタント

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト


東京大学経済学部卒。海外経済協力基金、国際協力銀行等で途上国向け円借款業務を約30年。2007年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジアの開発のWin-Win関係を目指して、経済調査、情報提供を行っている。

ブログ「カンボジア経済」 http://blog.goo.ne.jp/cambodiasoken


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