2013年後半より、バンコクを中心に現政府に対する抗議活動が続いている。2014年1月13日、反政府デモ隊はバンコクの複数主要拠点を占拠し、バンコク封鎖(シャットダウン・バンコク)がはじまった。
このデモ活動はバンコク内の交通渋滞などを引き起こしているものの、企業活動は一部を除き、現在のところ大きな影響はない。
ただ、デモ隊の活動拠点の近くに住んでいる外国人にとっては24時間体制の抗議行動に迷惑していることと思われ、同情するばかりである。
今回のバンコク封鎖は、このような犠牲を払ってでも自分たちの主張を行うという意気込みである。
2014年2月2日のタイ総選挙を迎えて、両者はさらに対立を深めるのかが注目された。
選挙の前日、バンコクは普段よりも静かな夜を迎えたが、昼間は反政府デモ隊側のリーダーであるステープ元副首相が中華街でパレードを実施し、現政府の腐敗を訴えた。
中華街では、デモ隊が中国式旧正月を祝うチャイニーズカラーの赤一色で街を埋め尽くしていた。
デモに参加している人々は皆選挙に反対している訳ではなく、現政府の「汚職反対」という強いメッセージを発信していた。2月2日以降も現体制を打倒するまでデモを止めるつもりは無いと、その意気込みは衰えない。そして平和的な活動をしていくことを主張していた。
デモ活動を支える資金は反政府を支持する国民からの寄付などで運営されているようであり、パレードに参加している人々は次々に沿道に繋がれた「ひも」にお札をホチキスでとめていく。次第に人々の寄付したお札が沿道を埋め、まるでお布施の光景のようにも感じられた。
解決の道筋が見えない混乱の中、筆者の長年の友人関係にあるタマサート大学の教授と、今後のタイ社会について話す機会を得た。
タイの大学進学率は学齢人口の約37%と以前より伸びているが、まだまだ課題は大きい。進学校はトリアム・ウドムスックサー(バンコク)のみで、その他の人気高校もバンコクに集中しており、地方へも満遍なく同等の高等教育機関を開設する必要があるとのことであった。都市と地方の格差に対する問題提起だと感じられた。
今後、タイの政治と経済を安定させる為には、今から優秀な教師を育成する必要を強く訴えていた。
彼によると、現在のタイの社会には、皆で共有する「軸」のようなものがないと言う。また、大学生の就職希望先1位は大手企業(エネルギーや金融系ファンドなど)、2位は医師、3位はマスコミ(エンターテイメントなど)であり、教育分野を目指す学生の数も低下しており、タイの人材形成や将来について不安視しているとのことだった。
今のタイには社会を牽引する強烈なリーダーが欠けており、国民間の「新秩序」提起ができるリーダーが必要であり、解決には時間がかかると語っていた。
私も人材の育成強化には大賛成であり、これはタイに限ったものではなく、日本にも共通の課題である。日本がこれから更に成熟した社会になるために超えるべき壁であるとも感じる。
私はタイに携わるビジネスコンサルタントとして18年を数えるが、1992年のスチンダ元首相とチャムロン元バンコク都知事との政治クーデター、2006年のタクシン元首相追放クーデター、2010年の赤組による反政府デモ、2011年の大洪水など多くのことを経験し、日本企業の海外展開や投資におけるリスクをどのように最小化するかという事を考えてきた。このような自然災害や政治的混乱の中でも経済は動き続けており、株価や為替の動きを慎重に注視する必要がある。また今後はタイだけではなくタイ・プラス・ワン地域との連携や、エリア毎の生産体制におけるリスクヘッジ戦略を持つ事が進出の際の必須事項であると感じている。
数年後のASEAN共同体(AEC)の発足を迎え、日本企業の事業シミュレーションについても様々な可能性を模索している段階である。
現在タイで起きている政治的混乱は、長期化が予測されるが、タイがこれを機に先鞭をつけ、今後のタイ・プラス・ワン地域の「新秩序」を作っていくことを強く期待している。
2014年2月2日
アークビジネスサーチ
福田淳