アジアの"いま"

鈴木 博
2020/08/26 12:03
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 8月12日、欧州連合(EU)の欧州委員会は、カンボジアに適用している貿易優遇措置の一部を停止すると発表しました。フン・セン政権が2018年の選挙がらみで強権的な対応をとったこと等から、「組織的かつ深刻な人権侵害」が続いていることを理由としています。全品目ではなく、衣料品や靴の一部、砂糖などが対象で、影響額はカンボジアの対EU輸出総額の約2割に当たる10億ユーロ(約1250億円)程度となる見込みです。
 EUはカンボジアを含む後発開発途上国に対し、無関税、数量無制限で対EU輸出を認める特恵関税制度「武器以外全て(EBA)」を適用してきました。EUでは、2019年2月以来、カンボジアの民主主義の状況や人権・労働者の権利等につき調査を行った結果を基に、今回の決定を行ったとしています。一部停止を決定した2月12日から6カ月の経過期間が満了したため発動に至ったものです。

 全面停止ではなく、EU向け輸出の2割程度に影響が出る程度としてはいるものの、対象となった縫製品等は他国でも生産可能であり、カンボジアの縫製業は大きな影響を受けるものと見られ、生産停止や工場閉鎖等により、雇用にも影響が出ることが懸念されます。
 今回の措置については、2月の決定以降に新型コロナで状況が大きく変動したにもかかわらず、そのまま実施された点については批判する声が上がっています。また、香港やウイグルで人権弾圧を行っている中国には何の制裁もない一方で、カンボジアには制裁を課すのは、ダブルスタンダードであるとの批判からも免れないものと思われます。EUの措置は、中国を後ろ盾としているフン・セン政権には効き目がない一方で、新型コロナの影響を強く受けているカンボジア経済には更なる打撃となり、しかも貧困・脆弱な多くの女性工員を更なる苦境に追い込む可能性が高いものと見られます。

 なお、今年は新型コロナによる需要蒸発のインパクトが強すぎるため、EUの措置のインパクトは当面はかすんでしまう可能性が高いものと見られ、EUの措置の効果が大きく現れるのは、新型コロナにより激減している先進諸国の需要が回復した後の来年後半以降になると思われます。

EUの発表(英文です)

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_20_1469

鈴木 博
コンサルタント

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト


東京大学経済学部卒。海外経済協力基金、国際協力銀行等で途上国向け円借款業務を約30年。2007年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジアの開発のWin-Win関係を目指して、経済調査、情報提供を行っている。

ブログ「カンボジア経済」 http://blog.goo.ne.jp/cambodiasoken


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