少し前の話になるが、今年のタイ旧正月ソンクラーン祭り、別名「1年で最も危険な1週間」中に発生した交通事故は計2,581件で、負傷者は2,751人、死亡者は253人であった。主な原因は、例年同様、飲酒運転とスピードの出し過ぎであった。
タイでは毎年この時期から急激に暑くなるが、同時にタクシン元首相の話題も熱くなるのが近年恒例となってきている。今年は、タクシン氏がソンクラーン期間中に隣国のラオスとカンボジアに滞在するということで、暗殺やら帰国やらの噂が飛び交った。
なぜこの時期か?
タクシン氏は迷信や占いに凝っていると言われるが故に、出身地チェンマイと縁の深いラオスのビエンチャンを取り結ぶ由緒ある寺院で儀式を行いたかったのか?もしくは、支持基盤である東北部の支持者へのアピールなのか…?
いずれにしても、自身の存在感とインラック首相のPRなのであろうが、ラオスとカンボジア、共に2日間の滞在中、赤シャツの支持者数千人がツアーで両国へ向かった。しかし、従来の見込みよりは少なく、かなり低調な“お祭り”であったと思う。
しかし話題は多かった。
ツアーの中に反タクシン派が紛れ込みタクシン氏を暗殺するとか、支持者が大量に作成したタクシン氏の「お面」をかぶった数万人の支持者に紛れてタクシン氏本人が帰国するとか、様々な憶測が流布した。タイでは毎度このような噂が意図的に流されることがあるのだが、今回も大きな混乱等なく“お祭り”が一段落したことに安堵している。
タクシン氏は両国における集会で、
「今年中には帰国することになりそうだ。それができない場合は捕まえにきて欲しい!国は前進しなければならないが、残念ながら、クーデター後の6年間、国の発展は止まったままである。インラック首相は奮闘しているが、政治的対立のため思うように進んでいない現実がある。もし私が帰国したら、首相にならずとも国民のために働く事ができるのだ。そして政府も国民のためにもっと仕事をしなければならない。タイはいま政治対立を解消し国民和解をすべき時に来ている。その兆候はあり、国民の誰もがそれを望んでいる」
と述べた。
また、タクシン氏は、かつての政敵であり、06年のクーデターと黒幕と言われているプレム枢密院議長にソンクラーンのお祝いの言葉も述べており、両者の和解が進んでいることを裏付ける形となった。また、首相も副首相3人を引き連れ議長邸を訪問、政治家同士による和解に向けて歩み寄る演出まで行われた。タクシン氏の帰国は自身の誕生日である7月26日、あるいは今年で80歳になられる王妃、60歳になられる皇太子の誕生日とも囁かれているが、いまだ乗り越えなければならないハードルは多く、年内帰国はただの希望的観測にすぎないとの声も高い。
とはいえ、タクシン氏の年内帰国の実現に向け、憲法改正案、国民和解に向けた議論は着々と進んでいる。閣議では期限未設定の国会の会期延長を決定し、06年のクーデター後のタクシン氏に対する疑惑調査等を「なかったこと」にする提案も盛り込まれた第3者機関の報告書を審議、これをベースに審議中の憲法改正案の成立を目指すと共に、国民和解の議論を続けていく魂胆がある。
当然、反タクシン派は“タクシン氏の帰国が狙いであり、また、現在の国会は首相等の不信任案の提出を認めていない立法議会になっている”と反発を強めているが具体的な対抗措置は取れていない感がある。
そんな折、タイ南部で連続爆弾テロが発生した。野党民主党は、そのタクシン氏がマレーシアを訪問し、イスラム武装勢力の指導者と会談したことが引き金となったと主張しているが、与党は、「武装勢力とはいかなる交渉もしない」とし、こうした見方を否定している。
いずれにしてもタクシン氏の話題は尽きることはない…。