アジアの"いま"

辻本 浩一郎
2012/08/14 02:04
  • Check

タイには多くの裁判所があるが、その一つに、日本では聞きなれない憲法裁判所というのがある。

 

通常は検察の申し立てにより開かれるものであるが、今回は野党の申し立てにより裁判が開かれた。

 

政権与党のプアタイ党などタクシン派が国会で進める“ある期間の政治犯を全て無罪とする”という趣旨の憲法改正の動きに対し、反タクシン派の野党民主党などが「改憲は立憲君主制の転覆を狙った違憲なものだ」などとして、憲法裁判所に改憲の国会審議中止とプアタイの解党を求めているもので、これが明確な違憲と判断されるのか、憲法裁の判決が人々の注目を集めた。

 

8名の裁判官により、4つのポイントが審議された。

 

(1) タイ国民は、憲法改正案が民主主義政治を打倒するものだと思われた場合は、最高検察庁に調査を求め、憲法裁に申し立てを行う事が出来る。
(2) 国会は憲法改正を実施する権限を有する。しかしそれに先立ち国民投票によって承認されなければならない。
(3) 今回の改正案に付いては、民主主義政治を打倒する狙いがあると判断する十分な証拠が無かった。
(4) 従って、憲法裁は政党の解体や役員の政治活動禁止処分に付いては判断はしない。

 

結果、改憲自体は合憲で、立憲君主制の転覆が狙いという訴えは証拠が不十分だとして訴える判決が下された。

 

これにより、タクシン氏ほかの政治犯を無罪とする改正案はほぼ可能性が無くなり、また与党プアタイ党も解党は免れたため、黄 VS 赤 の対立も解消し、混乱はいったんは収束する見込みとなった。

 

今回の判決で特筆すべき事は、「憲法改正にはまず国民投票が必要」という点を明確に打ち出した所にある。

 

また政体打倒の疑義がある時は、国民が直接憲法裁に申し立て出来るとしたため、タクシン関連の改正が出された場合は、その都度、反対派より申し立てが行われる事が想定され、決定には長時間を必要とする事が容易に予測される事態となった。

 

違憲との判断は為されなかったものの、手続きに誤りがあったとの判断を示した事で、タクシン氏帰国問題は先延ばしとなり、市民グループ間での衝突も回避され、これ以上の混乱を回避して欲しいと願う我々としては、ほっと一息を付く玉虫色の裁きであった。

 

今後、親タクシン派の与党国会議員は、各条例ごとの変更を行い、タクシン氏の一日も早い帰国を実現すべく動き出すものと思う。また海外に亡命中のタクシン氏は、今回の憲法裁の判決には不満の意を表明した。

辻本 浩一郎
コンサルタント

M&A Advisory Co., Ltd.
Executive Manager


バンコク在住14年、タイにおける日系企業のビジネスを、進出支援全般を含め、特に法務、労務、会計・税務の面でコンサルティング、サポートしている。

M&A Group : http://www.m-agroup.com/


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA