アジアの"いま"

辻本 浩一郎
2012/11/27 02:10
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以前にもタイ農業再従事者の増加について述べたが、これは政府肝煎りで昨年から実施している農家支援策のコメ担保融資制度が大きく影響していると言えよう。

 

その名の通り、コメを担保に政府が農家に融資を行う制度で、政府はすでに2012年~13年収穫期にコメ担保融資を継続することを決定し、約2600万トンのコメを担保として受け入れ、融資予算は4050億バーツ(約1兆300億円)を計上している。

 

しかし、当該融資額は、コメの国際価格を大幅に上回る担保価値を認めているため、実際には政府の買い入れと指摘され、農家へのばらまき政策、国家財政への多大な損失とギリシャのような財政危機を招くとの批判も多い。

 

また価格上昇は、タイ産コメ輸出の激減を招き、実際、タイは世界1位のコメ輸出国にも関わらず、今年1~8月の輸出は436万トンとベトナム、インドに次ぐ3位に転落している。

 

インラック首相は、「担保融資制度は農家支援につながっている。一部問題があることを認めるが、農家所得を増やし景気を刺激する効果はある。同制度を実施しなければ、コメ価格は値崩れを起こすだろう。国に損をさせることはない。また、政府が抱えたコメ在庫も一時的に債務が膨らむだけで、売却は可能だし売却後は債務返済できる」と述べ、政策に理解を求めているが、反対の声は大きく、一部の大学や学者、学生が“公正で自由な競争を行う権利を規定した憲法43条に違反するなど”として憲法裁へ差止めの訴状を提出する事態に発展。

 

憲法裁は当該訴状の却下の判断を下したが、この問題、赤組派である地方の農家の圧倒的支援を受けて政権を奪取した貢献党の重要公約の一つであるがゆえに、背景に政府VS反政府 の対立も見え隠れしていることは否めず、やがて大きな問題、衝突勃発へのきっかけとならないことを念じている。

辻本 浩一郎
コンサルタント

M&A Advisory Co., Ltd.
Executive Manager


バンコク在住14年、タイにおける日系企業のビジネスを、進出支援全般を含め、特に法務、労務、会計・税務の面でコンサルティング、サポートしている。

M&A Group : http://www.m-agroup.com/


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