アジアの"いま"

辻本 浩一郎
2013/06/29 01:20
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4月末に、モンゴルの首都ウランバートルで開催された「民主主義閣僚級会合」でのインラック首相の演説が波紋を拡げている。インラック首相は、“タイは選挙で正当に選ばれたタクシン元首相をクーデターで追放して以降、民主主義から脱線した。クーデターはタイの法律を破壊し、国際的な信用も失わせた。タイ国民は権利と自由が不当に奪われたと感じた。また、2010年のタクシン派大規模デモでは自由を求めた罪なき人々が狙撃手に殺され、多くの政治的犠牲者が取り締まられ今なお身柄拘束されている”と、今まで触れることのなかった内容に言及し、国内で批判が噴出、すぐさま王党派は「タイの春」を起こして政権を打倒すると猛批判、急速に政治情勢が不安定化に陥った。

 

首相はすぐさま、“タイの国際的な信用を高めるのが狙いだった。あらゆる国が民主主義の強化に手を携えていけるよう呼び掛けるつもりだった。また、将来のクーデターを防止するもので、タクシン氏の犯罪をなきものにするつもりはない”との釈明に追われたが、らしくないスピーチで一気に早期の解散総選挙説が浮上する事態となった。

 

赤組も黙ってはいない。3年前の治安部隊による5月騒乱の赤組強制排除「ラチャプラソン53」作戦から3年を迎えた19日、昨年、一昨年に続き、かつて占拠した交差点で3万規模の集会を開き、犠牲者追悼や当時のアピシット政権に対する糾弾を行ったが、インラック政権に対する不信感も募らした。

 

チャルーム副首相は、2006年クーデター以降、政治活動で罪に問われた活動家に恩赦を与える独自の内容の法案を国会に提出したが、同法案はタクシン氏やタクシン派団体の幹部も対象としている。

 

しかしながら、赤組は、恩赦対象を一般の活動家に限定した法案を支持しているため、副首相案を、タクシン氏の帰国実現と引き換えに強制排除の責任追及を放棄する取引だ、と感情的にもとても受け入れがたい内容と声を高めている。クーデター後の政治犯に恩赦を与える法案含め、「タクシン氏の帰国実現」に向けた種々の動きが今後のタイの行く末を二分すると言っても過言ではないほど、くすぶり続ける根深い火種が未だタイには存在する。

 

当のタクシン氏本人は、“チャンスがあれば帰国する。帰国できなくても何も、そしてどんなポジションも望まない。タイ社会に民主主義をもたらす様、引き続き努力する。恩赦法案に付いては、デモ指導者や自分自身よりも2010年の反政府デモに関連し身柄拘束された人々を対象としなければならない。国会議員は恩赦法の審議を進め、政府は支持者のケアを続けるべきだ。そしてインラック首相にこのまま国を率いてもらう”と述べているが、タクシン一族内では、決して表面化することのないそれぞれの役割分担があるらしく、それは、タクシン氏が国内外の政治、妹のヤオワパー氏が党内外の調整役、そしてインラック首相は、タクシン、ヤオワパー両氏が書いた台本に従い、リーダーを演じることだという。タクシン一族の3本の矢が、タイを牛耳る構造は、引き続き、当分続きそうな気配である。

辻本 浩一郎
コンサルタント

M&A Advisory Co., Ltd.
Executive Manager


バンコク在住14年、タイにおける日系企業のビジネスを、進出支援全般を含め、特に法務、労務、会計・税務の面でコンサルティング、サポートしている。

M&A Group : http://www.m-agroup.com/


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