本日、プミポン国王陛下の86歳の御誕生日を迎え、反政府デモは活動自粛をしている様相。国王陛下の御誕生日を心からお祝いするとともに、これまでの経緯を少し振り返ってみたい。
就任以来、兄タクシン氏の帰国問題については、口を硬く閉ざして来たインラック首相であるが、遂に兄の軍門に下ったのか、健康不安が流布されているのが事実で、兄の健康に配慮したのか、恩赦法案を下院に上程、それが賛成多数で成立してしまった。野党は当然猛反発したが、与党に組していた赤組からも、これではアピシット前首相の罪も問えなくなるとして反発が起こり、大学教授等知識人よりも違法性の指摘がされた。
1万~2万人規模のデモが連日行われ、お陰でいつどの道が封鎖されるかも不明となり、人々は車での外出を控え出した為、一時的に交通渋滞が緩和される珍現象も起きた。タクシン氏は、「これは自分だけのためのものでは無い。国民全員和解の為である…」等々と海外から所信を述べたが効果は無く、更なる混乱に突入。
予想を超える盛り上がりに恐れを成したか、遂に、インラック首相は、臨時に記者会見を開き、本法案の取り下げを表明した。これに影響されてか、通過が予想されていた上院で否決され、再度下院に回される事になった。ここに来て、ほとんど国会には出席せぬインラック首相が、これは国会が勝手にやった事と逃げのスピーチを行ったため、更に世の中は騒然となり、今度は首相の退陣を迫る動きとなって来ている。
タクシン体制の根絶を目指すデモ隊は、一段と先鋭化し、遂には、財務省、外務省、首相府等の敷地内に進入し、そこを占拠した。現在このデモの先頭に立っているのが、野党民主党の元副首相のステープ氏であるが、この様な政府機関の各省庁への進入、政府機能を麻痺させ、インラック政権を解散に持ち込む戦法や同氏の唱える、人民議会の創設等には支持者の中にもかなりの戸惑い、反対意見が出てきている。最大野党民主党にはかなりの追い風となっているのに、肝心の民主党党首アピシット氏よりの明確なメッセージが出て来ない点に、消化不良を感じている。
また、9月下旬のことであるが、インラック政権は、現在の上院定数150に対しその半数が民選、残り半分が任命制となっていることが民主的でないと異議を唱え、定数を200にして全員を選挙で選ぶ制度改革を提案し、数にまかせて国会で可決していた。
野党は、これを違憲として憲法裁判所に提訴していたのだが、今般、憲法裁判所が違憲性があるとの判決を下した。
理由としては、
(1)下院と上院の間での相互チェック機能が働かなくなる。
(2)与党の一部議員が欠席議員に代わり票を投じていた。
である。
この判決に勢いを得た野党は、タクシン氏の傀儡政権打倒を旗印に、一挙に攻勢を掛けるべく、更なる市民運動の拡大を画策し出した。恩赦法案は撤回させられるし、上院の改革は違憲とされるし、インラック首相は良いところ無く、守勢一方となって来ているが、またいつかのように女性の涙で巻き返しを計るのだろうか…。
インラック首相は、国民と国家の安全に影響を与えると非難する一方、政府は国民に暴力は振るわない事を強調した。タクシン氏もこの妹を見限った様な動きもあり、首相としては、解散総選挙に打って出る事もあり得るが、今回はこの手は無さそうである。居座るのか、内閣総辞職するか等今後の動静に国民が注目している。
今回の騒動で感じる事は、いかに多くの国民がタクシン氏の帰国を望んでいないかが良く分かったし、彼の影響力も低下し、妹も彼の願望より自己の保身を優先したと思われる。少々焦りが感じられるタクシン氏が、次にどの様な手を打ってくるかにも注目したい。