アジアの"いま"

辻本 浩一郎
2014/03/11 05:29
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2月2日、予定通り総選挙は行なわれたが、20%の地域ではデモ隊に阻止され投票が行なわれなかった。地方でも投票率は50%を切り、バンコクでは20%程度に留まった。しかし、バンコ クの完全封鎖を宣言したデモ隊側も、参加者が2万人を切り、その影響力が減少しつつある事も判明した。今後、選挙管理委員会が、どの様な対応に出るかに注目されているが、新政権誕生にはかなりの時間が掛かる事が予想される。

 

2月18日、デモ隊が封鎖する一箇所を治安部隊が排除しようとして、遂に衝突、5人の死者と多数のけが人が出る事態となってしまった。警官の一人が、腰に付けている手榴弾を誤って落とし、それを慌てて蹴飛ばしたものが暴発、それに驚いたのか、一部治安部員が催眠ガス弾等をデモ隊に発射、それを後方で隠れていた、私服軍隊の射撃兵が警官を狙って狙撃、殺害したもの等の解説をしてくれるタイ人がいるが、真相は不明である。その後も各地区で特に真夜中に、発砲や爆発が起こっているとの報道が連日の様にあるが、住んでいる者は殆ど気付いてはいない程度のものである。

 

以前より懸念があった米の問題が急浮上してきた。農民表獲得の為、選挙の公約で、農家の米を高く買い上げる政策をぶち上げて来たが、その支払いが遅延してきた。

 

今回のデモ騒動に刺激され、農民の不満が道路封鎖等のデモ的手段で表面化して来た。バラマキ政策ゆえ、元々無理があり、政府は高値で買い上げるものの、安く外国に販売すると、その赤字が表面化する為躊躇、一気に在庫が膨らんだ。これを地方の有力者が掠め取る疑惑も表面化、政府が何処に幾らの在庫があるか把握していない事も判明、一気にスキャンダル化した。

 

なんとか売り先として内定していた中国が、このゴタゴタに嫌気となり、キャンセルしてきた。そこへ今回のデモ騒ぎ、政府はこの対応に振り回され、農民への支払いが滞り、一方、各銀行もこれへの資金の貸し出しを渋った為、農民の怒りは頂点に達した。

 

この無理のある政策を公約として当選し、国に多額の負債を計上する懸念、在庫管理の不備による管理責任者としての落ち度、大切な農家を大混乱に陥らせた責任等々でインラック首相を相手取った訴訟が起こる事が懸念され出した。

 

インラック氏個人としては、首相にもなり、巨額の富もあり、デモ騒動よりはさっさと手を引きたい所であろうが、この米騒動でそうは行かなくなった。即ち、首相を辞任すると、反対派の内閣が出来る可能性が高く、そうすると世界中でそうであるが、前首相が何かの罪で法廷に引っ張り出され有罪となっているが、その二の舞を恐れているのである。その何かの罪になり得るのが、上記の米問題であり、従って簡単に下野出来ぬのである。

 

汚職委員会のトップの自宅が、何者かによって狙撃された。タクシン氏支持者派は、各種裁判により、インラック首相等が有罪とされる事に不安を感じ、脅かしに出てきたとの感は歪めないが、どうも長期化している両者の対立も、次第にデモ側有利な展開となり出したとも感じられる。

 

多くの富裕層のタイ人達は、タクシン一族の国外逃避は時間の問題と言い出しているが、果たして如何なものか注目してみたい。一方、過激な親タクシン派よりは、国を二分しようとの暴論も出てきている。正常な選挙で、新政権誕生までには二年ほど掛かりそうである。

辻本 浩一郎
コンサルタント

M&A Advisory Co., Ltd.
Executive Manager


バンコク在住14年、タイにおける日系企業のビジネスを、進出支援全般を含め、特に法務、労務、会計・税務の面でコンサルティング、サポートしている。

M&A Group : http://www.m-agroup.com/


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